「陽人! 何やってんのよ!!」

私は叫んだ。

でも、足は動かない。

早く陽人の元へ行って、こんなバカなことを止めさせないといけないのに。


慎のそばに、タケちゃんがいた。

床に座り込んでいるのは、きっと腰を抜かしているからだ。

私の声を聞くと、タケちゃんは涙目になった顔をこちらに向けた。

「せんぱいーっ」

その胸には慎のトランペットをしっかり抱えている。

慎が倒されたとき、タケちゃんはとっさに楽器を守ってくれたんだろう。


そして教室の奥では、沢崎エリナが真っ白な顔をして立っていた。

私のことを睨みつけているその姿から、恐怖の中に怒りすら感じ取れる。


陽人は興奮しすぎて、私の声も聞こえていないようだった。

大きな声で

「お前、今この女と何してたんだよ!言ってみろ!!」

って、エリナをあごでさす。

「もうやめろ、陽人! 深月が見てるぞ!!」

必死に陽人を抑えてそう叫んだのは、ヤマタロ。

だけど、ヤマタロより一回り大きな陽人を1人で押さえつけておくには限界があって。

「うるさい!」

陽人はヤマタロを振りほどこうと力いっぱい抵抗した。

ヤマタロはその勢いで、頭から後ろへ倒れてしまった。

「いてぇっ!」