合奏が終わり、ヘトヘトになった私たちが片づけをしていると、滝田先生が私の肩を叩いた。

「ちょっと外、いい?」

その表情はもう、いつもの柔和な先生に戻っている。

「はい」

先生に連れられて、私は部室の外へ出た。


もう、すっかり日が暮れていた。
熱気にあふれた部室から一歩外に出ると、空気がひんやりと冷たい。

「寒いなー」

私の前に立っていた先生は大きく腕を伸ばし、冷たい空気を吸いこんだ。

そして「ゲホッ」と咳き込む。

……先生って、音楽以外はイマイチ決まらないことが多い。


「深月……慎と何があったの?」

「え……」

私は言葉に詰まる。

「タケはああいうヤツだから、3年が抜けてサボってるんだろうけど……」

先生はその場にしゃがみこんで、ポリポリと頭をかいた。

「お前たちはなぁ……その……あれだ。練習もまじめに出てるし、息も合ってたし……」

先生は、何もかも気づいているようだった。

「すみません」

そう答えるしかない私。

「んー、まぁ、何ていえばいいのかわからないけど、辛かったらパート変わるか?」

私は首を横に振った。

「いえ! 大丈夫です!」

先生はじっと私の目を見る。

「……本当にやっていけるか?」

私も先生の目を見返した。

「はい!」

私はトランペットが好きだ。いまさら他の楽器に移りたくない。

そんな想いを先生も分かってくれていた。

先生は立ち上がると「それならいいよ」と言った。

「俺もお前のペットが好きだから、このまま頑張ってほしいしな」

「……はい!」

「じゃあ、風邪引く前に中に入ろうか」


「先生、待って!」

私はその場を去ろうとする背中に向かって声をかけた。


メールのこと……聞かないと!