「…………おーい、聞いてるか?」

ふと顔を上げると、ヤマタロが楽しそうに笑っていた。

だけど、話を聞いていなかった私には、何のことだかさっぱり分からなかった。

「それでさぁ。オレ、あいつを電車に乗せた後、すげぇクサイこと言ったんだよなー。その時のエリナの顔、見ものだったぞ」

って。

何よ。

何をそんなに楽しそうに思い出してるのよ。


……もう、限界。


「なんて言ったか、教えてやろうか?」


ぎゅっと強くつぶった私の目から、一粒の涙がこぼれた。


「……もう、イヤだ」

「……え?」

「なんで……よりによって、なんで……なんでヤマタロなの……」

涙が次々と私の頬を伝った。

「深月?」

ヤマタロも、私の涙に気づいたみたいだ。

私の頬にそっと、ヤマタロの手が近づいてくる。

だけど、私は思わず、その手を払いのけてしまった。


ヤマタロの前で泣いちゃいけないって、ずっと我慢してたけど、


もう無理。


「“オレ”がヤマタロなんて、知りたくなかったよ!」



……空気が、変わった。