「最近集まり悪いよね。……タケちゃん、今日も遅れるんだって」

タケちゃんっていうのは、同じトランペット担当の1年後輩だ。

「あいつ、やる気ないなぁ……」

「先輩が引退しちゃったから、怖いものなしだもんね」

「あんまり練習サボると、音が出なくなるのに」

楽器を手にしたまま、視線を合わさずに当たり障りのない会話を続ける私達。


慎とは、高校に入って吹奏楽部で知り合った。

同じ楽器担当で、毎日顔をあわせているうちに、お互い「いいな」っていう雰囲気になった。

高1の夏に慎から告白されて付き合い始めて、1年半近くが経とうとしている。


そんな私たちがうまくいかなくなったのは、最近のことだ。

……それまで、私が気づかなかっただけなのかも知れないけど。


「陸上部、見てたの?」

あぁ……。
さっき手を振ったところを見られていたんだ。

「見てたっていうか、ここにいればイヤでも目に入るし」

「ふーん……」


会話が途切れた。

あーもう、息苦しい。


この前初めて言葉にされたけれど、本当はずっとずっと前から、慎にとって私たち「仲良し4人組」の関係は理解できないものだったらしい。


私たちの沈黙は長く続いた。

いつの間に人が集まったんだろう。
背後の部室からは、いろんな楽器の音が響いていた。