タケちゃんは、慣れた手つきでピストンバルブにオイルを差しはじめた。

その手つきを眺めていると、タケちゃんが私の視線に気がついて

「俺、上手になったでしょ」

と嬉しそうに笑った。

「うん。前はオイルを差しすぎて、大騒ぎしてたのにね」

「はいー」


……タケちゃんにトランペットの手入れの仕方を教えてあげたのは、慎だったよね。

慎は演奏も上手だったけど、人一倍楽器を大事にしていた。

だから慎のトランペットは、いつもピカピカに輝いていた。


もう、慎と一緒にトランペットを吹けないんなんて……。


私の隣には、手の中の楽器をじっと見つめるタケちゃん。

言葉には出さなかったけれど、タケちゃんも同じことを思っていたようだ。