タケちゃんは、私の手を強引に引っ張ると、部室の外──いつもの練習スペース──へ私を連れ出してくれた。

「タケちゃん……」

タケちゃんは私に背を向けて、肩で息をしている。

足元にパイプ椅子や譜面台が倒れて散らかっているのは、部室の異変を感じたタケちゃんが慌てて駆けつけてくれたからだろうか。


たったひとつの椅子。
たったひとつの譜面台。

タケちゃんはこの1週間、ずっと1人で練習をしていたんだ。


「タケちゃん……ごめんね……」

タケちゃんは、私に背中を向けたまま、首を横に振った。

そして。

「先輩まで、いなくならないでくださいね」

「……え?」

「1人で練習するの、寂しかったんですからね!」

そう言って振り返ったタケちゃんの目には、うっすらと涙がにじんでいた。


「タケちゃん、ごめん。また一緒にやろう……」

私の言葉に、タケちゃんは「よかったぁ!」と、人なつっこい笑顔を見せてくれた。