冬うらら~猫と起爆スイッチ~


「あの…ネクタイ…結べ…な…」

 ワイシャツに顔を押しつけられる。

 そのシャツの匂いの影から、カイトの匂いまでも伝わってくる。

 整髪料か何かだろうか。

 その匂いに、クラクラしそうになった。

 ワイシャツごしの体温も、ひどくリアル過ぎる。

 彼の体温は、いろんなことを呼び起こしてしまうのだ。

「会社…」

 遅れてしまう、と言おうとしたら、ようやく彼が口を開けた。

「るせぇ…」

 しかし、答えはそれで。

 もっと強くギュッとされるだけなのだ。

 ああ。

 彼の腕越しに、気持ちが伝わってくる。

 もう何も我慢しなくていいのだという気持ちが、メイに込められる力で、投げつけられるのが分かった。

 好きの気持ちを、隠す必要もない。

 触れる腕を、躊躇する必要もないのだ。

 きっと――カイトも同じ気持ちだったのだ。

 都合のいい翻訳かもしれないが、こうやって抱かれている間だけは、彼女にもそれが分かるような気がした。

 力を抜いて、カイトの胸に顔を預ける。

 何とか腕だけを動かして。

 メイはネクタイを握ったままの手を。

 カイトの背中にそっと回した。

 微かに、彼が動いたのが分かる。

 抱きしめた。

 もう迷う必要のない手で、彼に触れるのだ。