冬うらら~猫と起爆スイッチ~

□189
 野菜を選ぶ目は、真剣そのものだった。

 カイトは、不思議なものを見る目で、メイの横顔を見つめた。

 こんなに真剣な表情で、ほうれん草を吟味している彼女を見るのは、当然初めての出来事であった。

 いままで一緒に暮らしていた時も、そんな風に買い物をしていたのだろう。

 驚きの事実だ。

 確かにカイトにとって、あの料理はおいしいものだった。

 彼女が作るから、というのも当然あったのだが――おいしくならないハズがなかった。

 こんなに一生懸命、材料を選んでいるのだから。

 一つ、新しいメイを見つけた気がする。

 黄色い買い物カゴを持ったまま、カイトはついつい彼女をじっと見つめてしまった。

「あっ…」

 さんざん迷いに迷った挙げ句、はっと隣のカイトに気づいたようで、慌ててほうれん草をカゴの中に入れた。

 恥ずかしそうに赤くなって、別の棚の方を向いてしまう。

 ばっと愛しさが跳ね上がる。

 社会的な空間というものが、こんなにムカついたことはなかった。

 もしも、ここに他の誰もいなかったというのならば、きっとカイトは彼女を抱きしめていただろう。

 そんな衝動をこらえなければならないのだ。

 それが、まるで結婚前の――更に前。

 心が通じ合わずに一緒に暮らしていた時の気持ちによく似ていて、彼はすごくイヤな思いを味わった。

 もう、ぎゅっと抱きしめるのに、何の障害もない。

 こらえる必要などない、と思ったのに。

 しかし、こらえなければならなかった。

 こんなスーパーの野菜売場で。

 カイトは、カゴを持って彼女についていかなければならないのだ。