冬うらら~猫と起爆スイッチ~


 今だって、本当はイヤなのだ。

 誰も目撃するな――というのが、正直な気持ちだ。

 でないと、その知り合いを抹殺したくなるからである。

 しかし、メイが一人で遠くまで出かけたり、重い袋をさげて帰ってくる方が、もっとイヤだった。

 玄関のところで車の鍵を取って振り返った時、ようやく彼女は一緒に来てくれることを理解したのだろう。

 足を止めて、カイトを見た。

「えっと…その…大丈夫だから」

 まだ悪そうに遠慮する唇。

 カイトは、イラッとした。

 何で、この気持ちを分からないのか、もどかしかったのだ。

 全然まだ、彼女と心を交わしきっていないように思えた。

 それが苛立ちになったのだ。

 当たり前である。

 いくら婚姻届を出したからと言って、それでいきなり相手の心の全部が分かるようになるワケではないのだ。

 免許皆伝の巻物とは違うのである。

 しかも、彼らはいままで、積み重ねてきたものが余りに少なかった。

 どういう風に物を考え、どういう風に相手のことを思っているのかさえ、きちんとした確信を持たされていないのである。

 相手が自分を好きで、自分が相手を好きなら、何の問題もない。

 カイトは、そんな極端な考え一つしか、いま手の中に握っていないのだ。

 それが、こんな苛立ちになったり焦りになったりする。

「オレが…」

 クソッと、心の中で乱暴につぶやく。


「オレが…大丈夫じゃ、ねぇ…」


 どうしてこの世の中は――言葉の方が、気持ちを伝えることに適しているのか。