冬うらら~猫と起爆スイッチ~


 自分の両親のような平凡すぎる関係か、ソウマとハルコのような、無言でも分かり合っているような関係か。

 でも。

 自分たちがこの家で、どんな夫婦になればいいのか、まったく想像できなかったのである。

 『結婚!』というものだけを目標に、今日のカイトは突っ走り、それが達成されてしまったのだ。

 先のことまでじっくり考えていなかった。

 これで、一緒に生活が出来る。

 そう、生活がやってくるのだ。

「んなこと…すんな」

 抱きしめたまま、メイにそう言った。

 買い物の件である。

 彼らは、結婚したばかりなのだ。

 しかも、思いは昨日確かめ合ったばかりで――まだ、それが完全に身体の中に吸収されきっていないのである。

 それなのに、『じゃあ、夫婦としての生活をスタートさせてください』、と言われても、うまく出来るはずなどないのだ。

「で、でも…買い物をしないと、夕ご飯も…明日の朝ご飯も、何も作れないから…」

 おろおろした声が、胸の中から聞こえてくる。

 彼女の口から、『明日』という文字が出た。

 そして、それを激しく実感出来たのである。

 メイと一緒に始まる明日が、ちゃんと存在するのだと。

 彼女も分かっているのだと。

 そっと腕を解いた。

「行くぞ…」

 カイトは、そう言った。

 買い物なら一緒にでかければ済むことだ。

 彼の車があれば、きっとメイが重くて大変なことにはならないだろう。

 自分が一緒なら、黙って迷わせたりするはずもなかった。

「え? え?」

 意味が分からなかったのだろう。

 さっさと出ていこうとするカイトの後を、驚いた声でついてくるメイ。

 カイトだって、自分が信じられなかった。

 食事の買い物なのである。

 カイトが。

 女と一緒に、スーパーに行くというのだ。

 そんなことを、自分からするようになるとは思ってもみなかった。