冬うらら~猫と起爆スイッチ~


 家に帰り着いて、呆然とした事実があった。

 これから、何をどうすればいいのか、分からないのである。

 太陽は、また高い位置にあった。

 時計を見ると、昼になったばかりだ。

「あ、あの…お昼ご飯作ります!」

 メイも落ち着かない様子で、しかし、いいことを思いついたとばかりに、調理場の方に駆けていった。

 逃げられてしまった気持ちだ。

 ま、待て!

 慌てて追いかける。

 しかし。

 困った顔のメイが、冷蔵庫の前で振り返った。

「か…買い物に!」

 今度は、そんなことを言い出した。

 そうなのだ。

 彼女が出ていってから、一度だってこの冷蔵庫をカイトが開けたことはない。

 中にあるものを使ってもいないし、足してもいないということだ。

 メイが、何日間かは知らないが、ここに家政婦に来ていたようだが、食事の用意は仕事には含まれていなかったはずである。

 だから、冷蔵庫の中身が増えているはずもなかった。

 カイトの視線から逃れるように、今度は買い物にでも出る気なのか。

 買い物。

 イヤな記憶が、プレイバックする。

 彼女は、あんな白菜のために、道に迷ってしまったのだ。そして、心臓がつぶれそうな思いを味わった。

 飛び出して行こうとする、メイの身体を――抱きしめて止めた。

 こうしないと、すぐにでもこの現実が消えてしまいそうだったのだ。

「あのっ…あの…」

 カイトがそこにいる、という感触に慣れないのか。

 それとも結婚した事実が、今頃一斉に襲いかかってきたのか、とにかく彼女はひどく落ち着かない様子だった。

 そんなのは。

 カイトも一緒だ。

 夫婦というものが、普通はどういう風に生活をしていくものなのか、たくさんの実例を見てきたワケではない。