冬うらら~猫と起爆スイッチ~

□170
 メイが―― 働いている。

 カイトは、思わず何度も瞬きをして、その存在を確認してしまった。

 ついさっき、彼の手を離れて調理場に逃げてしまったが、間違いなく彼女はそこで鍋なんかを洗っていた。

 一生懸命、という顔で。

 仕事。

 そう言われた。

 鍋を洗うのが仕事なのか、と思いかけたが、そうではないことに気づく。

 鍋洗いが済んだら、今度は掃除を始めたのである。

 カイトがそこに立って見ていることに気づいてはいるのだろうが、メイと視線がぶつかることはなかった。

 調理場が終わったら、次はダイニングだ。

 彼の脇をすりぬけて、新たな場所を掃除にかかる。

 これでは、まるで家政婦だ。

 はっ。

 それで理解した。

 彼女の言った仕事、というのは家政婦の仕事のことなのだ。

 裏で糸を引いているのが、誰かなんて考えるまでもなかった。

 ハルコ以外にありえない。

 本来、彼女のしていた仕事を、いまメイがしているのである。

 何でだ。

 しかし、理由が分からなかった。

 家政婦として戻ってくるなんて、想像だに出来なかった。

 もう二度と、彼女には会えないと思っていたのだから。

 なのにそこにいる。

 胸がきゅっと鳴いた。

 こんな風に―― こまネズミのように働くメイの姿を見たことはなかった。

 一緒に生活している時も、きっと彼女はこんな風に働いていたのだろう。

 彼がムキになって禁止していたために、カイトのいるところでは、働いているのを極力見せないようにしていたに違いなかった。