冬うらら~猫と起爆スイッチ~


 去年、ハルコに相談した時に、この気持ちを彼に打ち明けようと決めた。

 もう当たって砕けたって構わない、と思ったのである。

 とにかく、伝えずにはいられなかった。

 しかし、やはりいざ本人を目の前にすると、怖さが波のように襲ってくるのだ。

 本当に砕け散ってしまうかもしれない。
 いや、彼女の気持ち的には、砕ける確率の方が、遙かに高かった。

 それでも。

 彼に伝えると決めたのである。

 この家に通うのに、毎日メイはバスを使っていた。

 そのバスの座席に座って、ぼんやりと外を見ながら―― どういう風に切り出そうかシミュレーションばかりしていた。

 けれども、どれもこれも陳腐で子供みたいで。

 何気なく、あの居酒屋の女将に相談したら、『うちで一緒にご飯でも食べたらどう?』と言われた。

 一緒に食事をして、お酒を少し飲めば、うまく伝えられる言葉も出てくるのでは。

 彼女はそう思った。

 しかし、心配なこともあった。

 彼を、連れ出す以前の問題になりはしないかと。

 その時点で断られてしまったら、どうやってこの気持ちを伝えればいいか分からなかった。

 砕ける。

 その言葉がよぎると、不安に捕まって身動きも取れなくなるが、何度も何度も振り払った。

 決めたの。

 絶対に。

 伝えるって。

 ずっと。

 ただの家政婦でも。

 いいの。

 そう自分に言い聞かせて、メイは鍋を洗った。

 カイトが調理場の方に来るのが分かった。

 そっちを見ないようにする。
 でなければ、この勇気がくじけてしまいそうだった。

 お願いだから、まだ私に声をかけないで。

 勇気の芽が大きく育って花を咲かせる前に、摘まれてしまわないよう、彼女は強く願った。

 カイトはそこにいて、多分、自分を見ている。

 家政婦としての評価にも関わることだけに、役立たずと思われないために、メイは一生懸命働いた。

 ああ、早く。

 メイは、痛い視線を振り切って動き回りながら思った。

 早く、終わって。