さすがに、タクシーの後を追いかけてくるような真似はしなかったらしい。

 おそらく、自宅の方に帰ったとでも判断したのだろう。

 フン。

 しかし、彼はビルの中に入った。

 そして開発室に―― 誰かいやがる。

 中は相変わらず人の気配があった。

 1月4日である。

 会社は1月6日から始まるので、まだ年始休暇中のハズなのに。

 オタクどもめ。

 自分を棚上げにしながら、カイトは無遠慮にドアを開けた。

 数人の社員が出勤していた。

 彼らは、突然現れた社長にギョッとした顔をする。

 幽霊にでも会ったような顔だ。

 年末に、ここで倒れたのである。
 彼らも目撃しただろうから、驚くのもムリはない。

「しゃ、社長! あけましておめでとうございます!」

 慌てて立ち上がる連中が、そんなくだらない時節の挨拶を告げる。

 ああ。

 そうか。

 いまは、『あけましておめでとう』の時期なのだ。

 年始休暇という言葉はあっても、その挨拶はスコンと抜け落ちていた。

 病室からもほとんど出ない生活をしていたカイトには、無縁の言葉だったのだ。

 その挨拶に、眉だけで反応する。

 明けたとしても、彼にとってめでたいことなど何一つなかったのだ。