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 目が覚めても、もう今日が何日なのか分からない。

 ただ、久しぶりに自宅で迎える朝だった。

 身体がいやにだるくて、なかなか起き上がれない。

 ほこりっぽいベッドの匂い。

 部屋も、ビールの缶のせいかイヤな匂いだ。

 閉め切ったままのカーテンで薄暗く―― 冬でなければ、カビでもはえてしまいそうだった。

 そういえば、昨夜。

 会社でキーボードを入力していたカイトを、シュウが車に乗せて強制送還したのだ。

 呪文のような言葉ばかりが書いてある、栄養固形食品を、机の上に山積みにしていった。

 あのシュウがここまでするとは。

 おそらく、いまの自分は相当に酷いのだろう。

 ああ。

 昨日。

 シュウの車の窓から見た景色は、赤だの緑だの。

 きっと昨日が、クリスマス・イブとかいう日だったのだろう。

『メリー・クリスマス!』

 信号で止まった時。

 車の窓を閉ざしているにも関わらず、そんな声が聞こえてきたのだ。

 金色の紙でできた、とんがり帽子をかぶっているサラリーマンだった。

 顔は真っ赤で、すっかり酔っぱらっている。

 駅前は、そんな連中で溢れ返っていた。

 ケーキを売る女の声も、遠くに聞こえる。

 遅くまでご苦労なことだ。

 カイトは、その景色を見ないようにした。

 声も聞かないようにして、早く車が行き過ぎるのを待った。

 でなければ、暴れ出してしまいそうな自分がいたのだ。

 浮かれ騒いでいる連中に向かって、マシンガンを乱射したくなるのだ。


 自分を憎んでいる気持ちと、その気持ちをイヤだと思う自分がいる。

 誰だって、自分を憎みたくはない。

 普通の人間であれば、自分というものは、自分の中では頂点であるはずだ。

 少なくとも、みな、自分のために生きている。

 そんな至高の存在を、カイトは一番最下層まで叩きつけて踏みしだいて。