「おら、早く行け」

 ワガママ社長は、ハンドルから手を離している彼に言った。

 はっと前を向きなおり、シュウはオートマのギアをドライブに入れる。

 相変わらずのろのろと車は進んだ。

 気持ちの方は、まったく収まっていない。騒いだままだ。

 朝っぱらから、車の中でシュウとやりあってしまうくらい。

 いつもならもっと、何でもテキトーに強引に受け流せるハズだった。

 たとえ、ネクタイをぶら下げていても。

 あの女のことを、誰にも何も言われたくなかったのだ。

 大体、シュウに見られてしまったのすら腹立たしい。

「あの女性を、一人で置いてきてよろしかったんですか?」

 なのに!

 シュウは、また口に出したのである。

 ガンッッと、座席を蹴った。

 車が進んでいるので、もうシュウは足形を確認したりしなかった。

 蹴られることを、諦めたのかもしれない。

「あの家には、一応、貴重品などもありますし……」

 ガンガンッッ!

「大体、どこから連れてこられたのですか」

 ガンガンガンッッッッ!!

「視界が揺れますのでやめてください」

「るせーっつってんだよ!」

 黙って運転できねーのか!

 カイトは怒鳴った。

 これだけ近い距離なのだから、そんなに怒鳴らなくても聞こえます――物理の問題でもないのに、そういう目がミラーに映る。

「黙るのは構いませんが、しかし……あのままですと問題がありませんか?」

 また、車は止まった。

「問題なんかねぇ」

 カイトは答える。

 本当のところなんか、彼が知っているハズもなかった。
 自分でも分からないことだらけなのだから。

 だが、これ以上シュウに口を挟ませたくなかった。

 ただそれだけ。

 シュウは、腕時計を見た。

「もうすぐ……彼女が来ますよ」

 そうして、言ったのだ。

 瞬間。

 カイトは――時を止めた。