「あのっ! 大丈夫ですから! 大丈夫なんです…ご迷惑をおかけしました!」

 自分でも驚くほどの大きな声をあげて、彼女は二人の間の険悪な空気を破ろうとした。

 巡査も、それにあっけに取られる。

 しかし、カイトはそんな空気に感染することもなく、メイをとにかく引っ張ろうとした。

 あっ。

 そんな彼女の目に、買い物のビニール袋がよぎった。

 今夜のナベの材料になるものだ。
 少なくとも、そうなる予定だった。

 忘れていきそうになり、メイは逆方向に歩いて、彼の動きを遮った。

 ビニール袋を拾い上げる。

 カイトの方を向き直った。

 これで、心おきなく帰れる―― そう思った。

 思ったのに。

 カイトは、その買い物ビニールを認識するや、更に物凄い形相になったのだ。

 その中身が、まるで憎くてしょうがないかのような目だった。

 えっと思う暇もなかった。

 メイの手から、その買い物袋を奪い取るいやいなや、それをコンクリートの床に叩きつけたのだ。

 派出所に、割れた白菜が転がり出る。

 それに目を奪われていたら、一瞬足が宙に浮いた。

 カイトが強い力で彼女を引っ張っていたのだ。

 気づいたら、暗い夜道だ。

 よろけるけれども、彼の歩幅について行くしかない。

 怖いくらいに、本当に彼が怒っているのが分かった。そんなものは、引っ張られる腕の痛みで分かる。