冬うらら~猫と起爆スイッチ~


 あの借金返済の金はドブに捨てたとでも思って、メイを追い出して、何もかも忘れることである。

 もう彼女は、借金持ちではないのだから、カタギの職につけるだろう。

 これで、ああいう商売に手を染めて、似合わない姿になる必要はないのだ。

 カイトの『イヤ』とやらは、解消されるのである。


 そうすれば、もうイライラしたりしな―― 手が、熱い。


 まだ、忘れないのだ。

 最初に忘れた分まで覚えておこうとでも言う気か、この手は。

 チクショ!

 結局、静かに心穏やかになろうと落ちつかせかけた努力は、全てこの瞬間に水の泡となるのだ。

 背中を向けたまま、メイに言った。

「ベッドに……行け」

 無意識に、押し殺したような声になった。

 後ろの空気が震えた。

 しばらく沈黙が続いて――けれども、彼女はカイトを追い越してベッドに向かう。

 ベッドの側に立つ、脚。

 そのまま、じーっと立っている。

 カイトは、つけっぱなしのノートパソコンの方へと歩いた。

 歩きながら。

「寝ろ」

 言った。

 しばらく、また無言が続く。

 カイトはノートパソコンの目の前に立つ。

 彼女には背中を向ける形だ。

 ギシッ。

 ベッドがきしんだ。

 音を聞いているだけで、頭がおかしくなりそうだった。

 身体の中から、ざわめくものがある。

 苛立ちとか怒りとか、そんなものの数々にうちのめされた木々の影に、ちらりと何かがかすめた。

 ばさっ。

 毛布の中にもぐりこんだような音。

 カイトは、ブツン――という音を聞いた。

 彼は、ノートパソの電源を、いきなり切ったのである。

 正常終了なんて――全く出来なかった。