冬うらら~猫と起爆スイッチ~

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 社内の廊下でシュウとすれちがう時に、今日初めてこの顔を見るということに、やっとカイトは気づくことが出来た。

 同じ家に住んでいるのに、妙な話である。

 別に、シュウと会わないからといって、寂しいなんて気色の悪い感触を覚えるワケではない。

 ただ、彼女が来てからすっかり自分の生活サイクルが変わってしまったことに気づかされた。

 まあ、メイについて、とやかくこの男に口を挟まれると、一瞬でカイトの機嫌は悪くなる。

 かえって出会わない方が、彼の精神衛生上はいいのかもしれない。

「おはようございます」

 向こうもカイトを認識したらしく、事務的な挨拶を口にする。

 カイトは答えたりしない。
 それが、いつもの彼らの関係なのだ。

 ちょうど、開発室に行く道すがらのことだった。

 すれ違って終わりのハズだったのだが、その前にシュウが足を止めた。

 ああと、何かを思い出したかのように。

「ところで、明日はどうされますか?」

 書類を持ち直しながら、シュウが聞いてくる。

 その質問に、カイトは違和感を感じたが、すぐに理由が分かった。

 いつもシュウは、それを金曜日の出社途中の車の中で聞いてくるのだ。

 毎週の決まった確認事項のようなものである。

 本道に入って、2つ目の信号辺りでの儀式のようなものだった。
 左にポストが見えない状態で、こんなことを聞かれたせいで、違和感が押し寄せてきたのである。

 そう。

 明日は土曜日なのだ。

 この会社は、週休二日だった。

 納期前でなければ、基本的には土日が休みになる。

 納期前であっても一応そうなのだが、その頃は休みなんて名ばかりの仕事漬けだ。

 役員に、こういった労働基準は適用されない。

 カイトとシュウなんて、その適用されない筆頭だった。