冬うらら~猫と起爆スイッチ~


 バッカやろー。

 シャケを乱暴に解体しながら、カイトは唸った。

 素直に受け止められると―― もう理屈なんか抜きに、ただその笑顔が心の中に焼き付くだけなのだ。

 最初の頃に、全然見ることの出来なかった彼女の笑顔が増えていく。
 その度に、自分の中身を覗かれているような気がしてしょうがなかった。

 落ち着かなく、かなりな勢いで食事をたいらげる。

 そうして立ち上がった。

 メイは、まだ食事の途中だったが慌てたように立ち上がる。

 しなくていい!

 なんてことは、どうしても言えない朝の儀式。

 彼女が一番側に近付いてきて。

 息づかいも分かるくらいに。

 髪が揺れて、その指がカイトに魔法をかけるのだ。

 きゅっ。

 ネクタイを締めて上げる指と一緒に、胸が同じ音を立てる。

「いってらっしゃい」

 間近の笑顔に、また胸が音を立てる。

 しかし、カイトは無言で離れた。

 こんな胸の音の時に、長く彼女の側にいられない。

 理性という鎖がきしむのだ。


 まだ――全然ダメだった。