抱きしめることも、出来ない。

 彼女には、自分の思いを伝えることもぶつけることも出来ないのだ。

 それさえ破らなければ、彼女はここにいるのだから。

 そう、そこに。

 だからカイトは、自分の心を明かさないことに決めたのである。

 家政婦のようだから怒ったんではない。いや、それも確かにあるにはあるが。

 もしも、家政婦のようだから怒ったのなら、この朝食を用意した時点でカイトは怒鳴っていなければならなかったはずだ。

 先手を打たれて呆然としたところもあるが、彼は現状を甘んじたのである。

 いや、そうしたかったのだ。

 彼女が。
 カイトのために。
 用意した。
 朝食。

 大事なのは、そこだったのである。
 それを、カイトは棒に振れなかったのだ。

 だから決して――

 彼女が。
 カイトと。
 シュウのために。
 用意した。
 朝食。

 であってはいけなかったのである。

 カイトが、イヤだったのだ。

 メイの気持ちが、自分以外に向けられるのが。
 彼女の指が、自分以外のために仕事をするのが、イヤだったのだ。

 だから、ネクタイを締めたことにも怒鳴れなかった。

 彼女が、カイトの――それこそ、カイトのためだけに、ネクタイを締めてくれたのだから。

 そうして、欲しかったのだ。

 何てことだ。

 こんなに、自分はメイを独占したがっていたのである。

 それに気づかされた。

 このままでは、いつか自分の気持ちが彼女に伝わってしまうのではないか。

 怖い考えになる。

 しかし、カイトは頭をうち振った。

 そんなことには、ならねぇ!

 自分は、絶対にうまくやってみせる。

 この現状を、絶対に維持してみせる――と。