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 シュウが出ていった後、カイトは思い切り顔を歪めた。

 いや、さっきまででも既に歪み切っていたのだが、更に盛大に歪めたのだ。

 腹が立ってしょうがなかった。

 シュウは、わざわざ邪魔をしに出てくるし、メイは目の前で落ち込んでいるのだ。

 『謝るくらいなら、最初から作るな』、と怒鳴ったせいである。

 最悪なことに、悪い意味で受け止めてしまったのだ。

 シュウさえこなければ、あんな言葉を言うことはなかっただろうし、もう少しマシな言葉も言えたかもしれない。

 しかし、あの時は何よりシュウをこの空間から叩き出したかった。

 彼女と一緒にいる空間を邪魔されたくなかった。

 それに、メイが自分以外の男のために、食事の用意をするなんて―― たとえ、あの唐変木であったとしても、耐えられなかったのである。

 まるで、彼女を家政婦のように扱っている気分に――いや、そうじゃない。

 昨日、カイトは気づいたのだ。

 呆然と、目の前の女を好きなのだと、突き刺されるように気づいたのだ。

 頭が真っ白になった。
 自分が信じられなかった。

 けれども、その思いはどう見ても本物だったのである。

 カイトは、メイという女を好きだったのだ。
 だから、あんな風に、信じられないことばかりしていたのである。

 気づいても、後の祭りだった。

 2人の間には、見えない借用証書がある。

 見えるヤツは、カイトが破った。

 だから、本当ならば何にも存在しないのに、メイの目の中にはそれがあるのだ。

 それの代償として、彼に何かされると思っていたようで。
 安心させるために、自分のプライドをかけて、何もしないと宣言したのだ。

 好きだと自覚する前のことである。

 そうして、自覚してしまった後で、何もかもが自分を縛り付けているのに気づいた。

 どのツラを下げても、好きだなんて言えやしない。

 言ったらきっと、彼女はイヤとは言わないはずだ。

 だから、言えないのだ。

 イヤと言わないのは、メイの本心ではないのだから。