「おい!」

 不意に声をかけられて、びくっとメイは震えた。

 続き部屋になっている隣の部屋からだ。

 自分を連れ去った男の声。

 水音が聞こえた。

 目をやると、ウィスキーで汚れたままのシャツの袖を肘までまくりあげて、彼が戻ってきた。

「風呂入ってこい」

 顎でその部屋を指す。

 強引な態度だ。

 思えば、最初からこの人は強そうな人だった。

 背はそんなに高くなく、見た目に迫力は全然ないのに、でも彼は強そうに見えたのだ。

 目とか表情とか態度とか、そういうもので相手を威嚇するのだ。

「あの……でも」

 毛皮のふちをぎゅっと握って、メイは自分でも何が言いたいのか分かっていなかった。

「とっとと、その極楽鳥みてーな毛玉と、媚びる下着と酒とタバコの匂いと、全然似合ってねー化粧を捨ててきやがれ」

 全部気に入らねー。

 とにかく、カイトは一気にその気に入らない項目を並べ立てた。

 すごくイヤそうな顔だ。

 顰めっつらで言い捨てるような言葉。

 短気な性格らしく、すぐ語尾が荒くなる。

 あの店でもそうだった。

 あ。

 メイは、何となく悟った。

 確かに借金はなくなったのだろう、自分は。

 代わりに、カイトに買われたのだ。

 要するに、彼女にとってはボスが替わっただけ――それだけに過ぎないのである。

 そして、無傷で済むワケがなかったのだ。