英雄飼育日記。




「ご名答。我、ライ様の使役獣なり」


「……ああ、そういえば面倒くさい挨拶がありましたね」


突然現れた、銀髪の青年を見るなりカナトは舌打ちする。

私は状況についていけず、何が何やら。

ライ様の使役獣とか、風狼とか訳がわからない。

早く目を覚ましてくれ、私!



「君、名前は?」

「咲葉だけど、それが」


どうしたの、という言葉は声にならずに終わった。

私の目の前に立っているのは、さっきの怪しい半裸男ではない。


黒いオーラのようなものを滲ませ短剣を構えている、護衛そのものだった。



「我はサクハ様の使役獣なり…………で、君は挨拶をしにきたって訳じゃあなさそうだね?」

「使役者狩り、それが主の命令だ」

「はは、私がいるのに成功できるとでも?」


ずっと無表情の銀髪男と、微笑みを絶やさないカナト。

銀髪男の手には大きく曲がった不思議な形の長剣。

一方カナトの手には、闇のように暗いダガーが3つ。



そして、銀髪男が剣を一振り。

それだけで、部屋の中に大きな風が舞う。

カナトはそれに対抗し、ダガーを3本とも飛ばす。

しかしそれは、見えない何かによってはじき返された。


部屋を荒らす風。

飛び交う短剣。

割れる皿。

バチバチと音をたてる火花。

ひびの入るテレビのディスプレイ。

戦う男2人。

こぼれる私の朝食(アロエヨーグルト)。



「お前らいい加減にしろー!」



我慢の限界で叫んだ瞬間、時間が止まった。