危なかった。
たとえ犬とはいえ、外見は私と同い年くらいの男なのだから。
しかも容姿は、世間一般では「イケメン」に分類されるレベル。
スプーンを念入りに、今までにないくらい丁寧に洗う。
危ない危ない。
間接キスなんて考えるだけで鳥肌ものだ。
むしろ普通のキスよりも恥ずかしい。そう思うのは私だけかもしれない。
現在7時15分。
家を出るまで、あと25分。
「で、カナト」
「何だい?」
「昨日も言ったけど、家を出ない荒らさない!」
「………………サクハ君が危機的状況に遭ったときは許してもらえるかね?」
その問いに、一瞬つまる。
結局、考えた上での私の返答は「好きにして」だった。
でも、昨日今日で命の危機が訪れるわけがない。
いくらファンタジー世界の住人になったとはいえ、お尋ね者でも何でもないんだから。
カナトの向かいの席に腰掛けようとする。
しかし、その行動はカナトの呼びかけにより中断される。
何、と用件を尋ねる前に、左腕を引っ張られる。
下に引っ張られていないだけで、何となくデジャビュ。
前に倒れそうになる私は、咄嗟の判断で右腕をテーブルにたてた。
ありがとう、小学校の先生。
すりむかないように腕を柱にしろ、その教えは今ここにて有効活用されましたよ。
「ありがとう薪先…………しぇ?」
そして私は、とんでもないことをされていた。
小学校時代の恩師、薪先生(現在も独身だろう)にお礼を言っている場合ではないくらいのことを。
外見イケメン、本性垂れ耳わんこにされていた。
首筋への、口づけ。


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