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そうして、校門に着いた頃には8時13分。

朝のHRにはまだ早い時間。

何故私が、こんなに早く来るのか。


それは、ごく簡単な理由だった。




「……………………あ」



武藤 叶人(ムトウ カナヒト)先輩。


私の憧れといってもいい存在だ。


中学では吹奏楽部、トランペットパート所属。

先輩の出身校、木柳中学はコンクールで全国で金賞。

アンサンブルコンテストでは金賞。

ソロコンクールでも金賞をとった、憧れのトランペッター。



といっても、私の楽器はトロンボーンなのだけれど。




「おはようございます!」


遠くから声をかけてみる。

大きすぎず、小さすぎずの声量で。



「ああ、おはよう」

「朝練お疲れ様ですっ」

「ありがとう。守園さんは、もう吹奏楽には戻らないの?」


ほぼ毎日繰り返しているような会話。

私も一応有名な中学を出ているのだけれど、ダメ金(県落ち)だったからそんなに上手いわけじゃないのに。


「今からでも遅くないと思うよ?」

「その、忙しいんで」

「……まあ、気が向いたらいつでもおいで」



そう言って、武藤先輩は2年玄関へと消えていった。



えへ、今日も武藤先輩と喋れた。


「はいはい、愛しの先輩と愛のこもった会話ができてよかったですねー」

「い、衣幸(イユキ)!?」