妹神(をなりがみ)

 畳敷きの大きな部屋にはお茶などの用意が既にしてあった。テーブルというか昔懐かしいちゃぶ台みたいな物を囲んで昼飯と言うにはだいぶ遅くなったが、簡単な食事を始めた。お婆ちゃんが美紅に汁が入ったお椀を差し出す。それから俺の前にも。少し黄色みがかった薄いスープみたいな感じだ。美紅はさっそくそれを少しずつ飲み始めた。俺はその汁を見つめながら母ちゃんに訊いてみた。
「これ何?」
 母ちゃんも同じ物をすすりながら答えた。
「それはイラブーシンジ。エラブウミヘビの燻製で取ったスープよ」
 う、う……海蛇!俺はちゃぶ台から後ろにのけぞった。
「ちょ、ちょっと。病み上がりの美紅にそんなゲテモノを……」
 と言いかけたところで母ちゃんに平手で頭をパシーンとひっぱたかれた。
「ゲテモノとは何よ!失礼ね。これは沖縄では最高の薬膳料理なのよ」
「で、でも……」
 と言いかけて俺はまたその場で固まってしまった。母ちゃんのお椀の中にはスープだけでなく、何か黒っぽい棒みたいな物が入っていて、しかも母ちゃんそれを旨そうにかじってる!
「これこれ!いいわあ。東京にも沖縄料理の店は数え切れないほどあるけど、こればっかりはこっちに来ないと食べられないのよねえ」
「あ、あのう……母さん……それは。その。まさか?……」
「そ、出汁を取った後のイラブーよ。ほら、あんたもシンジ飲みなさい。お婆ちゃんがせっかく用意してくれたんだから。これはね、琉球王朝時代には宮廷でしか食べられなかった超高級料理なのよ」
「え!きゅ、宮廷料理!」
 俺は恐る恐るお椀を手に取って鼻に近付けて見た。海蛇だって蛇の一種なんだからもっと生臭いかと思ったら、そうでもない。そう言われると何となくありがたく見えてきた。死ぬ想いでほんの一口だけ口に入れる。
「……あれ?これ、なんか魚のスープみたいな」