美里はポカンとして、何も言えなかった。一体何の話だ?見かねたソナが横から口をはさむ。
「そんな話、日本の同胞が知ってるわけないでしょ。韓国人だって、一般国民は知らないんだから」
それからソナは美里に向かって説明を始めた。
「七六演説というのはね、金日成が1994年7月6日に政府内部で行った演説の事よ。当時はもう北朝鮮では餓死者が出始めていた。そこで北朝鮮の中に今で言う経済特区みたいな物を作って、韓国資本を受け入れて国の経済を立て直す。もし実現していたら、歴史的な大転換点になっていたでしょうね。その時点では既に韓国の経済力は圧倒的に北より上だったから、それをきっかけに南北統一が実現していた可能性だってあるわ。1990年に東西ドイツが再統一を果たした様にね」
美里はあらためて呆気にとられた。彼女の祖父と父は北朝鮮支持者だったから、一家そろって韓国の国籍を取得せず、日本政府から与えられた「朝鮮籍」という便宜上の国籍区分を守り通してきた。だから、日本人はもちろん、韓国籍の在日同胞よりは北朝鮮の事情に詳しいはずと美里自身思っていたが、そんな話は初耳だ。
「だが、ドイツの統一は、豊かな西ドイツが遅れて貧しい東を事実上吸収するという形になった」
ソンジョンが後を引き継いで語る。
「七六演説の方針が実行されたら、南朝鮮がわが共和国を吸収合併するという結果になった可能性が高かっただろう。だが、それでも毎年何十万もの人民が飢え死にする今の共和国よりはましだ。確かに主席が高齢で、長年心臓が悪かったのは事実だ。だが、死の間際の病人にそんな重大な決断と演説が出来ると思うか?それから丸二日も経たない7月8日午前2時……いくらなんでも、偶然のタイミングとは思えないんだ!」
「そんな話、日本の同胞が知ってるわけないでしょ。韓国人だって、一般国民は知らないんだから」
それからソナは美里に向かって説明を始めた。
「七六演説というのはね、金日成が1994年7月6日に政府内部で行った演説の事よ。当時はもう北朝鮮では餓死者が出始めていた。そこで北朝鮮の中に今で言う経済特区みたいな物を作って、韓国資本を受け入れて国の経済を立て直す。もし実現していたら、歴史的な大転換点になっていたでしょうね。その時点では既に韓国の経済力は圧倒的に北より上だったから、それをきっかけに南北統一が実現していた可能性だってあるわ。1990年に東西ドイツが再統一を果たした様にね」
美里はあらためて呆気にとられた。彼女の祖父と父は北朝鮮支持者だったから、一家そろって韓国の国籍を取得せず、日本政府から与えられた「朝鮮籍」という便宜上の国籍区分を守り通してきた。だから、日本人はもちろん、韓国籍の在日同胞よりは北朝鮮の事情に詳しいはずと美里自身思っていたが、そんな話は初耳だ。
「だが、ドイツの統一は、豊かな西ドイツが遅れて貧しい東を事実上吸収するという形になった」
ソンジョンが後を引き継いで語る。
「七六演説の方針が実行されたら、南朝鮮がわが共和国を吸収合併するという結果になった可能性が高かっただろう。だが、それでも毎年何十万もの人民が飢え死にする今の共和国よりはましだ。確かに主席が高齢で、長年心臓が悪かったのは事実だ。だが、死の間際の病人にそんな重大な決断と演説が出来ると思うか?それから丸二日も経たない7月8日午前2時……いくらなんでも、偶然のタイミングとは思えないんだ!」



