白頭山の残光

「金日成の死因は確かに心臓発作だった。でも、それは人為的にひき起こされた物だった……そういう事になるわけ?」
 そう言ってソナはソンジョンを見る。ソンジョンは今まで見た事もない真剣な顔で首を縦に振った。
「その可能性が高いな。それなら、方法は一つしかない」
 ソンジョンは自分のリュックに駆け寄ると、中から十数個の手投げ弾、そして分解した自動小銃、多数の弾倉を取り出し、わずか数分で自動小銃を組み立てた。全ての武器を身にまとい、美里とソナに向かって言う。
「君たちとはここでお別れだ。協力に感謝する。俺はこれから平壌に戻って、主席官邸に突入する。君たちは無事に未来の世界へ帰ってくれ」
 ソナが意外に冷静な声で訊いた。
「あんた、本気?」
「ああ。今日は7月7日だ。七六演説の翌日に、正体不明の武装した男が主席官邸に乱入したら大騒ぎになる。主席も周りの人間も警戒を強めるだろうから、主席に一服盛るなんて事は当分不可能になるだろう」
「ちょっと待ってよ!」
 たまらず美里は叫んだ。
「そんな所、護衛の兵隊が何十人もいるはずでしょ!あんた一人で勝ち目があるわけないじゃない」
「俺は敵地に単身乗り込んでのゲリラ戦の訓練も受けている。一時間ぐらいは持ちこたえて暴れて見せるさ。それにこっちの、2011年から来た方の俺がいなくなれば、美里が言っていたタイム・パラドックスというのも解消されるんじゃないか?」
「ソンジョン!あんた死にに行く気なの?」
「さっきからそう言っている」
 あまりにも平然とそう答えたソンジョンに、もう美里は絶句するしかなかった。ソンジョンは空を見渡しながら、何か達観したような口調で言った。