白頭山の残光

 撮影した画像を分析するために、一旦あの山の中へ戻る事になり、三人は来た時と逆のコースをたどってゴムボートで河をさかのぼり、時空の穴のそばに戻った。
 デジタルカメラの液晶モニターに映し出される映像を見ながら、何か不審な物はないか三人でチェックする。そして美里はある事に気づいた。小さな一つの箱に上に書いてあるハングル文字を見つめ、そして確信してソンジョンとソナに告げる。
「アンフェタミンよ、これ!それにこの数字、純度の事かどうか分からないけど、もしそうだとしたら、とんでもない物だわ。純度99%って事になるわ」
 ソナが言う。
「アンフェタミンって、確か覚せい剤の主成分よね?北韓は国家的ビジネスとして覚せい剤の製造、輸出をやっているから、不思議はない気もするけど」
 だが、ソンジョンはそれを即座に否定した。
「いや、それは金正日将軍の代になってからの話だ。金日成主席の時代には、麻薬や覚せい剤の類は厳しく禁止されていた。しかし、なぜそんな薬物が主席の官邸に?」
 ソナがまた言う。
「アンフェタミンって、心臓に薬として効くって事ある?金日成はこの頃には心臓が悪かったのよね?」
 美里は以前化学の講義で学んだ知識を必死になって思いだした。
「いえ、ソナ、それはないわ。アンフェタミンはむしろ副作用として不整脈……あっ!」
 その自分の言葉で美里は、ある可能性に気づいた。
「そうよ!心臓発作を誘発する副作用があるわ!それに99%の純度なら、健康な人でもただじゃすまない強い作用になる。もし、もともと心臓に持病がある人がこんな物を大量に口からでも摂取したら……」