白頭山の残光

 やがて町のはずれの川岸にボートをつけ、ソンジョンは無造作に近くの木にロープでボートをつないだ。そばに民家があり、一人の老人がいぶかしげにこちらを見つめている。こうも堂々と入り込んで大丈夫なのか?膝が震えだした美里に向かってソンジョンは小声で言った。
「下手に隠すと逆に怪しまれる。俺とソナは人民軍の士官という事になっているから、相手が一般市民なら簡単にごまかせる」
 そう言うとソンジョンは、おもむろにその老人の方へ歩み寄り、笑ってあいさつした。
「同務、おはようございます」
「あ、ああ。おはよう。あんた、軍人さんかね?あの舟は何だね?」
 ソンジョンは服のポケットから軍の身分証を取り出し、その老人に見せながら答えた。
「あれは軍が開発した新型の上陸艇です。今日は私用で平壌に来たのですが、ならついでに試験運転をして来いと言われて貸してもらいました。すみませんが同務、昼過ぎには戻りますので、それまであの上陸艇の番をお願いできませんか?もちろん、お礼はいたします」
 そう言ってソンジョンは日本のタバコの箱をひとつ老人に差し出した。老人は一瞬目を丸くして、そして急に愛想あふれる顔になり、何度も首を大きく縦に振った。
「もちろんです、お任せ下さい。いや、ご苦労さんです」
 それから三人は古めかしいトロリーバスを乗り継いで、市の中心部へたどり着いた。ソンジョンが過去の平壌の記録を調べたところによると、そこに金日成の主席官邸があったそうだ。