立て続けの驚愕の連続で、美里は頭の中が真っ白になった。北朝鮮人の男と韓国人の女が一緒にいる、しかも密かに自分のホテルの部屋に忍び込んで。そしていきなり自分の民族名を呼ばれたのだ。
 なぜ?長年の知り合いならともかく、今会ったばかりの見知らぬこの二人が、なぜ自分が在日朝鮮人だと知っているのか?ましてや、美里自身でさえほとんど使った事がない、自分の朝鮮名をどうして知っている?
 何が何だか分からないまま、美里はその二人に引きずられるようにしてホテルの隣の部屋に連れて行かれた。ご丁寧にも美里のすぐ隣の部屋を取ってあったようだ。美里をビジネスホテル特有のちっぽけなテーブルの椅子に座らせ、女の方がノートパソコンを開いて画面を美里の方に向ける。それを覗き込んだ瞬間、美里はこの二人が突然自分の前に現れた理由を理解した。
「削除される前にコピーを取っておいたのよ。あなたを訪ねて来たわけは、もう分かるでしょ?」
 と女が感情のこもらない口調で言う。それはツイッターの文章だった。
『タイムトラベルだぜ!すげえよ!』
 若者特有の軽薄な日本語の文章が並んでいた。このおかげで美里は情報漏洩の疑いをかけられ、さきほどやっと身の潔白が立ったばかりなのだ。
「そう、これを……」
 美里は観念したようにつぶやいた。それなら韓国と北朝鮮の、両方の軍人やら諜報部員やらが出て来ても不思議はない。しかし、だとしても何故自分の所へ?