二人がかりで部屋に美里を連れ戻し、大きな声を上げないよう念を押してから、男は美里の口から手を離した。美里は大声を上げて助けを求めるという考えはやめた方がいいと悟っていた。もし少しでもそんな素振りを見せたら、悲鳴を上げるより早くどこかを殴られて気絶させられるだろう。少なくとも男の方はその程度の事は簡単に出来るだけの、特殊な訓練を受けていると直感した。
 美里は怯えきっていたが、なるべく小さな声でその二人に問いただした。まず、日本語で話す。
「あ、あんた達は何?誰?」
 女の方が日本語で答えた。
「それは後で話す。ただ今は朝鮮語でしゃべって。彼の方は日本語が出来ないから」
 そう言って、傍らに経っている男の方に目をやる。男はいぶかしげな表情で二人の会話を聞いている。確かに日本語は理解できないようだ。美里は、朝鮮語であらためて尋ねた。
「あたしに一体何の用なのよ?どうやってこの部屋に入ったの?」
 男の方が静かな口調で答えた。
「こんな鍵は簡単に開けられる。俺は軍では特殊部隊にいる。実際に実戦任務についた事はまだないが」
 軍?特殊部隊?なら、この男は北朝鮮の軍人?美里は頭がさらに混乱してきた。美里は女の方に視線を移す。では彼女も北朝鮮の工作員なのか?それを見透かしたように女が言った。
「あたしは大韓民国の国家情報院の所属よ。あなたの協力が欲しいの。カネモト・ミサト……いえ、キム・ミリ」