そう言ってソンジョンは手に持った電池のパックを美里に見せる。美里の方も首をかしげて訊き返す。
「北朝鮮の外貨商店と普通の店では売っている物が違うの?」
「当然じゃないか。ここにあるような電化製品は外貨商店でしか売っていない。普通の店で人民ウォンで買えるのは、国産製品だけだ。たとえばラジオを普通の店で買えば、周波数のダイヤルがハンダで固定してある物しか買えない。南朝鮮の放送が聞けないようにしてあるんだ。それだって滅多に売ってない。外貨商店なら固定してないラジオを買えるが、さっき言ったように庶民の年収の何十倍もする」
 美里は頭を抱えたくなった。北朝鮮が世界で一番豊かなこの世の楽園だなんて話を信じる程、在日朝鮮人は彼女も含めて馬鹿ではない。しかし、ソンジョンがごく一般的な国民だとしたら、あの国の庶民は一体どんな日常生活をしているのだろう?