白頭山の残光

 ちょうど学校の登校時間だったため、途中で校門へ入って行く小学生の列に遭遇した。ソンジョンが美里の耳に顔を寄せて、また変な事を言い出した。
「日本では学生の風紀が乱れていると聞いていたが、いつからこんなにひどくなったんだ?」
 美里は一瞬ポカンとした。確かに近年、学級崩壊だの荒れる学校だのという問題は起きているが、今目の前を通り過ぎている小学生たちはごく普通の子供たちばかりだ。別におかしな服装をしているわけでも、暴力的な言動を見せているわけでもない。思い思いに友だちとおしゃべりしながら校門へ入って行っている、それだけのはずなのだが。
「あの子たち、どこがそんなに変?」
「なぜ一列に並んで行進していない。そりゃ、俺だって家を出てすぐはあんな風にしていた事もあったが、学校が近くなったら、列を組んで天皇を賛美する歌とか掛け声とか、そういう物を大声で唱えながら歩くのが普通だろう?教師や警察は何も注意しないのか?」
 美里はそろそろこの男の思考パターンが少し理解出来るようになっていた。
「北朝鮮じゃ、そうやって登校するのが常識なわけ?」
「もちろんだ。俺が小学生の頃は金日成主席を称えるスローガンを声をそろえて、一列に並んで行進しながら……日本なら天皇を称える歌とか、じゃないのか?」
「多分そんな事を小学生にやらせている国って北朝鮮ぐらいだと思うわよ」
「そうなのか?南朝鮮は共和制だから分かるが、日本には天皇がいるだろう?……それでも、そんな義務はないのか?」
「日本では小学生にそれやらせた方が大問題になるわよ」