白頭山の残光

「だって車椅子に乗っていただろう?」
「だから!それとどういう関係があるのよ?」
「ここは東京、日本の首都だろう?首都に住める身体障害者なら、党の幹部とか、その親族とか、特別な地位の人間だけのはずだろう?平壌でああいう時に助けもしないで知らん顔して通り過ぎたら、後で大変な事になるぞ」
 ああ!美里は思い出した。また聞きの話だが、平壌には身体障害者は住む事を許されない。心身ともに健康な人間以外は首都に住む事は許可されない、いるとすれば党の幹部とコネがあるとか、名誉の負傷で障害を負った軍人などだけだと。
 どうやらソンジョンは日本でも同じだと思っているらしい。北朝鮮の外へ出たのは生まれて初めてだと言っていたから、昨夜の「パックントン」の件といい、北朝鮮社会の「常識」が日本でも同じだと思い込んでしまっているのだ。
 日本ではそんな居住制限はないと説明しかけた美里をソンジョンは掌を振って遮った。
「ああ、分かった。日本は資本主義国家だったな。忘れていた」
「そうそう、理解できた?」
「もちろんだ。共産党の幹部のどうこう、なんて事はあるはずがないな。資本主義政党の幹部の親族なんだな」
「いや、だから、そうじゃなくて……」
 結局、美里もソナもそれ以上の説明はあきらめた。