「バスチアンが…、あいつが…、描いてる絵を隠すんだ…。
俺には見られたくないって…」
(…なんでなんでなんで)
(…なんでだよバスチアン。たかが絵じゃねぇか。今までにあんな態度、)
とったことはなかったのに。
『―――僕は知ってるよ。』
腕に込められた力が緩んで、アンジェロが怖いくらい落ち着いた声で言った。
「…え」
『僕はバスチアンの絵の内容を知ってるよ』
(…え)
『知りたい?リュカ』
リュカから離れて、悪戯な子供みたいな目で彼を覗きこむアンジェロ。
(…なんでアンジェロが)
兄である自分にはあんなに見せることを拒んだ絵をどうしてバスチアンは…
あぁ、そうか。
そういうことなのか。
バスチアンは知らないとしてもきっと自然と惹かれてしまうんだろう。
だって変わらないんだもんな。天使と人間、その違いだけだ。
卑屈でひねくれた自分なんかよりも綺麗な天使を選ぶのなんか当たり前だ。
(…バスチアンは俺よりアンジェロのことが)
そう思ったら悲しみは怒りに変わり、ますます苛立ちは募り、バスチアンが憎らしいとさえ感じてきてしまう。
『リュカ?』
その横で、天使は無邪気に微笑んでいた。
―――何もかも知っているかのように


