「…あぁあ」
どこへ行くともなくリュカは通りをぶらついて夜空を見上げた。
珍しい夜だった。満点に煌めいた星が、鮮やかにリュカを見下ろして笑っている。
(…あの空、)
おもわず片手を宙へ伸ばし、空を掴み取る。
けれど手にできたものは何もなく、虚しさと後悔だけを飲み込んで、その手を情けなくおろした。
「母さん、」
リュカが生まれて間もなく亡くなった母親の記憶はないに等しい。
その顔さえも、はっきりとは覚えていない。
「twinkle、twinkle、little、star~…」
思わず口ずさんだそれはイギリス人の母が毎日歌ってくれていた歌。彼女の好きな歌。
不思議なことにその歌声だけはやけにハッキリと鮮明に、耳に残っていた。
――――タッタッタ、
『リュカ…!』


