「何で、知って…、」
『僕いつも見ていたもの。リュカが仕事をさぼって隅で絵を描いてるの』
得意気に笑うアンジェロ。
リュカはただ戸惑うばかりで視線をキョロキョロさせている。
「へぇー。兄ちゃん絵を描くんだぁ」
『そうだよ。とってもとっても綺麗なんだ』
「僕も見たいなぁ」
アンジェロの青い瞳と、バスチアンの灰色の瞳が優しく瞬いてリュカを眺める。
「…絵なんか、描いてねぇよ」
リュカは居心地が悪くてそっぽを向く。
『嘘、凄く綺麗な絵だったもん』
それでも食い下がるアンジェロは首を傾げた。
『あれは、まるで―――「余計なこと言うなよ!」
その絵を頭の中で思い浮かべて遠い目をしたアンジェロを、叫んだリュカが恫喝する。
(…なんなんだよ)
「…、兄、ちゃん?」
リュカの気迫に驚いて、恐る恐るバスチアンが声をかける。
けれどリュカは2人を見ず、テーブルを離れようと不機嫌に立ち上がった。
『――リュカ、一体あれは誰を描いてたの?』
微笑みを崩さないアンジェロがその背中に問う。
ビクリと震えた両肩と共にリュカが立ち止まる。
「………」
返事をかえすことなく、彼は倉庫の扉を開けてでていった。


