フランス、パリ郊外に住む少年リュカは靴磨きと絵描きのアシスタントで食い扶持を稼ぐ日々だった。

13歳の彼に両親はなく、加えて4つ下の弟を抱えている。

小さな彼の目鼻立ちは麗しく、いつも被っているコバルトブルーのキャスケットから覗く黒髪と赤茶色の瞳、息を飲むような白い肌と淡い桃色の唇。

珍しい黒髪は父親譲りで、街を駆け回る彼の傍を通り過ぎる人々は必ず振り返ってしまう。




「やっべ、怒られちゃうよ」


朝――廃屋となった倉庫のビロード色の深い緑の重い鉄のドアを押し開ければ、クルポッ、クルポッ、鳴き声と共に白い鳩が跳び去った。



(…んー、眩しー)



窓のない倉庫の中に光はなく、毎朝この扉を開ける度に目の眩むような朝日が差し込む。

カビたパンの欠片を口にくわえながら、手のひらを額へやって目を細めては青空を仰ぎ見た。



(…雲ひとつねーや)



金色の陽光を透かして、思わず青空の向こうへと思いを馳せる。



(…無駄にでっかい空だなー)