―――ドン、ドン、ドン
真っ暗な静けさの中に突然鳴り響いた音。
サーシャはベッドから起き上がり、スタンドの明かりをつける。
淡い橙色に僅かに照らされた室内に少し安堵して短く息を吐き、窓辺のカーテンの側へ寄った。
(…サンタ、さん?)
それならばわざわざ窓を叩いて訪問を知らせるわけないじゃないと、自身に突っ込みをいれる。
カーテンを掴む手を躊躇わせて、向こう側に居る存在へ思考を這わせる。
昼間、空が青く穏やかな時間帯にしか姿を現さないアンジェロのニッコリとした愛らしい笑顔を思い浮かべて首を傾げた。
(…こんな、遅くに来たことなんて、ないのに)
―――スルリ、
「…アンジェ、――――」
サーシャの呼びかけは途中で途切れてしまう。
あとはハッ、と息を飲み、ただただ窓の外に映る影へと視線を向ける。
(…、アンジェ、ロ)
「アンジェロ!」
ガタガタと慌ただしい音を立てて乱暴に窓の鍵を開ける。
大きな音と共に開いた窓の向こうには、浅い息でこちらを見つめ、顔を歪めながら必死に笑顔を見せようとする…
紛れもない―――
「アンジェロ…」
(…ずぶ、濡れだ)
金色の睫毛からはポロポロと雫が滴り落ち、柔らかなブロンドもぐっしょりと濡れ、血の気は失せ、白磁の白い肌もこれでもかという程に青ざめている。
…真っ赤な唇とスカイブルーの瞳だけは、健在だ。
「…ァ、ンジェロ。ど、したの?」
掠れる声で問えば、目の前の天使はへらり、精一杯に笑って言った。
『メリー、クリスマ…ス。サー…、シャ、』