(…また明日、今度こそ来てくれるよね)



サーシャは切なげに眉を顰めてカーテンを引いた。

お風呂にはいってパジャマに着替えると、眠気は最高潮に達していた。




―――午後10時

コンコン。

ノックの音がして返事を返せば、エレナがトレーを持って部屋に入ってきた。




「お嬢様、ホットチョコレートを持ってまいりましたよ。お飲みになりますか?」


肯くとエレナは笑顔でベッド脇のサイドテーブルにそれを置く。

サーシャは読んでいた本を閉じて、エレナを見上げた。




「エレナ、この前はごめんなさい。あの、その私――」

「いいんですよ、お気になさらないでください。それよりも今日は良かったですね」


エレナの柔らかい話し方はサーシャを安心させた。同時に彼女にたいして酷い態度をとったことをサーシャは深く後悔した。




「ごめんなさい、エレナ」

「さぁさぁ、もう寝ないと。でもお嬢様、心細いときは私が傍にいることも、お忘れにならないでくださいね」


枕を整え、サーシャの手からマグカップを受け取ったエレナは宥めるように言う。

なんて優しい女性なのだろうと、サーシャは申し訳なく微笑んだ。




「おやすみなさい、お嬢様」

「おやすみ、エレナ」


口内に残るホットチョコレートの甘さとエレナの優しさ、両親と分かり合えたことの喜び、

全部を重ね合わせて幸せは膨れ上がる。


―――けれど



(…あぁアンジェロ、あなたにさえ逢えたら、それだけで、それだけでいいのに)



アンジェロだけが、足りない。

どれほど彼が自分の中で大切な存在だったのかを痛いほどに感じていた。



(…早く眠ってまた明日アンジェロを待とう)



そう決心して眠りについたサーシャは


―――幸せの羽の有効期限をすっかり忘れてしまっていた