「―――君の願いは、アンジェロを普通の人間にすること。

そうだったよね?」


バスチアンが急に真剣な顔つきになって訊く。

それにごくりと固唾を飲んで、サーシャもゆっくりと肯いた。




「それ以外には何も望まない?」

「…あ、う、うん」

「本当に?」


それはどういう意味なんだろうか。

やけに鋭い灰色の眼差しを向けられて、サーシャはアンジェロが人間になれることへの期待と同時に不安になった。




「私は、アンジェロの願いが叶えばそれで満足だよ。

だから…」

「………」

「だからそれだけで、いいよ」


そう言った途端に早くアンジェロに会いたい、会わせてほしいという気持ちが募って、サーシャは拳に力を込めた。

緊張と期待で鼓動は早くなる。




「…わかった」


バスチアンは肯いて、その翼を翻し、元きた窓枠のほうへ歩いていく。




「ねぇ!」


サーシャはもう一度その背中に声をかけた。



「私、またアンジェロに会える?」


僅かに不安を含んだか細い声で問えば、バスチアンは口許を綻ばせて、愛らしい笑顔をみせた。



「アンジェロは幸せだね。君にこんなに想われて…。きっと兄ちゃんも喜ぶ」

「…………会える?」

「うん、きっと」


その言葉にほっと胸を撫でおろし、サーシャも眉尻をさげて笑む。




「―――じゃあ、またいつか」


さよなら、サーシャ。明るい笑顔の堕天使は、青空に帰っていった。