「僕は今は何にもなりたくない。堕天使の僕でいたいんだ。

それが、兄ちゃんが最期に言ったことだしね…」


サーシャは考えていた。

もし自分がアンジェロの立場に置かれていたらどう感じたのだろうと。

天使、堕天使、人間。自分の大事な人たちや友達に、そんな区別がなされていて、それぞれにあるべき形があるのだとしたら…。

天使は綺麗で居なくちゃならない。



(…アンジェロは疲れちゃったんだね)



まっさらな天使が罪を犯したとき、それ以上の穢れはない

アンジェロはそう言って自分を責めていたけど、サーシャは彼が罪を犯したとは思えなかった。

アンジェロもリュカもバスチアンも、お父さんやお母さんたちも、みんなそれぞれに精一杯に生きただけなんじゃないかと。



(…誰かを必死で想いながら)



「私のしたお願いは叶わないの?」


冷静な口調でバスチアンに問いかけた。

すると彼は両手を広げて肩を竦めた。




「きっと叶うよ。でも例がないだけ。

だから、君の望んだ形とはちょっと、違っちゃうかもしれない」


望んだ形―――そう言われてサーシャが真っ先に思い浮かべたのは、アンジェロが人間の男の子として笑って、またこの部屋で2人でチェスをすること。

アンジェロがもう何にも悲しんだり、苦しんだりしないこと。



(…それは叶わない?)