『バスチアン…』
「違う…そんなはず…そんなわけ、ない」
譫言のようにそう呟きながら、バスチアンはズンズンと教会の方角へ足を進めた。
(…兄ちゃんが死ぬわけない――――)
そう否定すればするほどに、ドクンドクンと心臓は壊れそうに鳴り響き、しまいには全力疾走で2人は駆けた。
――――ダン、
駆けつけたその場所には、人だかりができていた。
バスチアンとアンジェロはただ祈るような気持ちで、互いに無言で奥へ進む。
『―――――リュカ、』
願いも虚しく、2人が目にしたのは
この世でもっとも拝みたくないものだった――――。
「…兄、ちゃん」
青白く生気を失った顔で瞼を閉じ、横向きによこたわるリュカ。
まるで眠っているように安らかな表情に、現実逃避は募るばかりで、アンジェロは涙もでない。
(…ドウシテ?
違うでしょ、何で、)
隣ではバスチアンが、何かを必死で叫びながら号泣し、リュカの体を揺り動かしている。
その声も、人々の話し声も、
周りの一切の音が遮断されたように、アンジェロの耳には入ってこない。
(…ドウシテ泣いてるの?)
だって、リュカはただ疲れて眠っているだけじゃないか。
(…ドウシテ?)
顔を歪めることもなく、涙を流すでもなく、アンジェロは立ち尽くす。
何も聴こえないその空間の中、ただ規則正しく動く自分の心臓の音だけが、やけにリアルに体中に響いていた。