lacrimosa








『―――わぁ』


思わず感嘆の吐息が漏れる。

目を覆うほどに眩しいその光の根源は、アンジェロの両脇に広がった大きな大きな真っ白い翼だった。

金とシルクが溶け合ったような、まろやかな艶と光沢がある。




『ミルクの匂い、』

「フフ、えー…?」

『甘い、甘いよ、アンジェロ。アンジェロから凄くいい匂いがする』

「あぁ。羽はね、人それぞれの幸福の香りと味がするんだ」


じゃあ、この香りは自分の幸福のそれなのかと。

サーシャはもう一度目を細めて息を吸い込んだ。



(…あ、シアワセだ)



『やっぱり、やっぱり天使なのね…!』

「………」


にっこりと両頬をあげて高い声でそう問えば、アンジェロは翼を縮めてベッドの上に座った。

そして、酷く悲しそうに愁眉を顰めて笑う。




「…天使じゃ、ないよ」

『うそ、こんなに綺麗な羽を持ってるのに、天使じゃないわけないじゃない』


そうたたみかけると、クスリと微笑をこぼして肩を竦めるアンジェロ。




『これを見せたのは、サーシャに元気になってほしかったからなんだ』


そのままアンジェロは右肩へ視線を落とし、何をするかと思いきや…

プチリ、小さな羽を一枚、毟った。




『―――な、なにやって…!』

「これを、あげる」


長さ5センチばかりの小さな小さなその一枚は、単体でも充分なほど光り輝き、差し出されたアンジェロの左手の上で揺れていた。