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ガタン。
「お帰り兄ちゃん、あのねアンジェロは―――――兄ちゃん?」
帰ってくるなり床に崩れ落ちるリュカ。
バスチアンは異変を感じて駆け寄った。
「兄ちゃん?どうしたの?兄ちゃん、」
「あいつ…」
キャスケットの鍔に隠れて影になったリュカの顔は窺えない。
けれど泣いているようにバスチアンには感じた。
「…あいつ。勝手に。自分で――――」
リュカは話し始める。
バスチアンは時折涙を滲ませながら、兄の声に耳を傾けていた。
「―――俺、あいつを、友達を殺しちまった」
最後にそう嘆いたリュカ。
バスチアンはその肩をそっと撫でた。
「聞いて、兄ちゃん。
…パパはね、僕に本当のことを話してからいなくなったんだよ?」
「…え」
リュカとバスチアンの父―――シャルルは、アンジェロの母親―――天使のアンジェラと恋をした。
彼は泣いて謝りながらバスチアンに彼が堕天使であることを告げ、3日後に失踪したという。
『―――おまえが堕天使なのは、人間のパパが天使のママと恋に落ちたせいだ。ごめんなバスチアン、ごめんな…』
「パパは何度も僕に謝ってた。そのときからずっと知ってたんだよ。自分が何者なのかくらい」
「じゃあ、あいつは…アンジェロは…」
「アンジェロは何も悪くなかったんだよ。彼が僕に教えたわけじゃないもの」
「でも、俺は…」
お前のせいだと言ったとき、アンジェロは何も言わなかったじゃないか。
自分じゃないと弁解しなかったじゃないか。
ただ悲しそうな目で黙ってこっちを見つめて―――
「アンジェロはきっと一番苦しかったはずだよ。
彼はね、他人の心が読めるんだ。兄ちゃんがアンジェロを憎んでいたことだって全部筒抜けだったんだよ」
だからか。全て知っているような口振りで自分を誘導するような話し方。
からかわれているのかと何度も癪に触ったけれどあれは――
(…アンジェロ、お前は)


