「――――アンジェロ!」
叫んだ。
夜の街は明るくて。街灯は橙色に灯って、温かかった。
「――――アンジェロ!でてこい」
力の限り、叫んだ。
『ナニ。リュカ、』
ふわりと風を感じて、振り向けば真っ白な翼の天使がいた。
「アンジェロ…。俺はお前が憎いよ。何で、何でバスチアンにあのことを言った」
リュカが悔し涙を浮かべて問うけれど、アンジェロは黙っていた。
―――思いだしていたから。
ママを憎いといって許せなかったパパを。ママを憎んで悪魔になったパパを。
(…リュカも、僕を憎んで悪魔になる?)
「おい…、きいてんのかよ」
リュカが低い声で唸る。
駄目だよ。君はバスチアンにとって掛け替えのないお兄ちゃんで。天使みたいに優しいんだからさ。
『リュカは、今何を望んでるの?』
予想外に静かで、大人びた口調でアンジェロは聞き返した。
リュカは頭を抱えて顔をしかめる。
(…俺はただ、)
バスチアンをこれ以上苦しめたくない。
脳裏に浮かぶあの絵。あの痛々しい絵。原因は―――どうしてああなった?
(…そうだ。お前が、お前がバスチアンに真実を教えたからだ)
―――全部お前のせいだよ
「消えてよ。」
なぁ、と。リュカが蚊の鳴くように情けない涙声でアンジェロに請う。
「お前も、お前の母親もみんな、俺の父さんも、消えちまえばいいんだよ…」
アンジェロはただ憂いを帯びた無表情でリュカを見つめていた。
と、ゆるりと延ばされた彼の腕。その指先は広場の銅像を指差していた。


