「―――…、」
ハッと息を飲んだ。
それはその絵が目を見張るほどに上手かったからというだけではない。
白いキャンバス。中心に立つのは白く長い布を纏った1人の少年。
グレーの髪に瞳、それはバスチアン本人そのものだった。
絵の中の彼は泣いていない。
けれどまるで心の中で悲鳴をあげてないているかのように悲哀に満ちた表情を浮かべている。
全体のタッチは薄く、消えてしまいそうに儚い色使いが繊細で、見るものに悲しみを与えた。
「…バスチアン」
何よりリュカが驚いたのは
キャンバス全体に対角線のように大きく引かれた2本の線――赤い色の×印。
それはこの絵、ひいては中心に立つバスチアンそのものを全否定しているようだった。
(…なんでこんな、)
こんなに哀しい絵をリュカは今までで見たことがなかった。
愛する弟が、自分自身に×印を描くなんて。
いつも明るく、無邪気で、笑顔なはずのバスチアンが――信じられなかった。
(…バスチアン。お前は一体何を思ってこれを描いたの?)


