リュカにはそういう一面があった。
現実を打開したいあまり、一時でも救いの手を求めてしまう傾向が人一倍強いのだ。
以前にもアトリエで知り合った年上の男から麻薬を分けてもらっていたくらいだ。
『大天使ガブリエルの力の全てだよ。なんだってできるよ…』
けれどこれは、麻薬とはレベルが違っていた。
抗えないほどの幸福の香りを放ち、リュカを誘惑する。
(…天使の、力)
本来なら自分にとってそんな穢れた力は使いたくはない。
でもこれさえあれば、過去も現状も全て巻き返せるような気がして。
「なんで俺に…」
『僕、持っているのが苦しいんだ。もう半分は僕の力だし、残りの半分は必要ないから…』
震える手でリュカの胸に押し付ける。
まるで汚い何かを押しやるように。
(…俺を、誘惑するなよ、)
(…だめだ、そんな――)
――だって、俺は弱いから。
そんな力を手に入れてしまったら、自分が自分に屈してしまうのは目に見えていた。


